債務不履行とは
債務不履行という言葉は法律用語のため、日常生活ではあまり耳馴染みがない言葉かも多いかもしれません。
借金に関する契約だけでなく、不動産などの売買契約においても用いられる言葉です。
履行という言葉は、当事者間で取り決めた約束を実際に実行することという意味で使用されます。
たとえば、お金を借りた場合は、同意した契約内容に従って、約束通り期日までに支払わなければいけません。
債務不履行とは、本来、一方が他方に対して行うべき、契約義務を果たさないことを言います。
つまり、支払期日を過ぎても返済を行わなかった場合(延滞)は、債務不履行となります。
債務不履行が生じた場合は、債権者(貸主)は債務者(借主)に対して、契約に基づいて強制履行や契約解除、損害賠償の請求を行うことが出来ます。
債務不履行の種類
債務不履行には、履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類があると考えられています。
借金・金銭債務については、履行遅滞の責任を負います。
履行遅滞
履行遅滞とは、債務が履行期にあり、履行できるにもかかわらず、現実には債務が履行されないことを言います。債務者遅滞とも言います。
民法第412条(履行期と履行遅滞)
- 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
- 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
- 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
消費者金融・銀行カードローンやクレジットカードのキャッシングでお金を借りる場合は、毎月の支払期日が定められています。
そのため、利用者(債務者)は、その支払期日を迎えた時から履行遅滞の責任を負うことになります。
例えば、支払期日である月末に正しく支払いが行われず、その日を過ぎても支払いが行われなかった場合は履行遅滞となります。
また、履行遅滞に至った理由が、故意であるか過失であるかは問われません。
履行不能
履行不能とは、成立時には履行可能だった債務を債務者が故意あるいは過失によらず、履行できなくなってしまったことを言います。
民法第543条(履行不能による解除権)
履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
契約成立後に不能となった場合は、債権者は一方的に契約の効力を解消させることが出来ます。
例えば、相手に売却することを約束した絵画を紛失してしまった場合は、絵画の引渡しが不可能になるので履行不能となります。
不完全履行
不完全履行とは、履行された部分はあるものの、その履行が完全になされてないことを言います。
債務者により積極的に履行がなされたにもかかわらず、その履行が不完全なものであったため、債権者に損害が生じた場合を指します。
履行遅滞・履行不能は、債務者が「債務の履行を行わない」という消極的理由に基づきますが、不完全履行は積極的に債務の履行が行われている点が大きな違いです。
例えば、商品を引き渡したのにもかかわらず、取り違えがあった場合は不完全履行となります。
一般的に、支払いの一部が滞っている場合(部分的な不履行)は、不完全履行ではなく履行遅滞とみなされます。
国内の金銭消費貸借契約で生じる金銭債務は、通常、法定通貨である日本円によってやり取りされます。
そのため、履行不能や不完全履行という債務不履行は生じないものとされています。
つまり、借金における債務不履行は、履行遅滞に限られると考えられています。
債務不履行が生じた場合
カードローン、キャッシングで債務不履行が生じた場合、債権者(消費者金融・クレジット会社など)は債務者に対して以下の内容を求めることができます。
- 強制履行
- 契約解除
- 損害賠償請求
強制履行
強制履行とは、債務者が債務を履行しない場合、債権者が裁判所に訴え、執行力のある債務名義により強制的に履行させることを言います。
債務名義とは
強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のこと。強制執行を行う場合に必要になる。
現行法上では裁判所による強制だけが認められており、私力による強制は認められていません。
支払いの遅延が生じている場合は、債権者は、債務者に対して債務の強制履行を請求することが出来ます。
強制履行には、大きく直接強制と間接強制、代替執行の3種類があります。
- 直接強制 … 債務者の意思に関係なく債務の内容を実現する。
- 間接強制 … 裁判所を通じて、罰金を科す等して債務者の行為を促す。
- 代替執行 … 債権者が第三者に作為(お金を支払うなど)を行わせて、その費用を債務者から取立てるという方法。
債務者自身に義務の履行を強制するという意味では、直接強制と間接強制の2つが当てはまります。
直接強制
直接強制は、債権本来の内容を強制的に実現させるため、債務者の意思を無視して実力行使が行われます。
金銭債権の場合、一般的には、債務者の財産を差し押さえて競売を行い、売却代金から配当を得るという方法がとられます。
債務者の最低限生活に必要なものを除いて、全財産が差し押さえの対象となるとされています。
間接強制
間接強制は、一定額の金銭(制裁金)を支払うように命じることで、債務者を心理的に強制し自発的な履行を促します。
債務の性質が強制履行を許さない場合、その債務が作為を目的とする時は、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することが出来ます。
まずは直接強制、次いで間接強制を検討し、その可能性がない場合は代替執行を考えることになります。
代替執行
代替執行は、債務者が債務の履行を頑なに拒む場合に検討される手続きです。
裁判に基づいて、債権者が第三者に債務行為を代行させ、その費用を債務者から強制的に徴収することになります。
契約解除
契約解除とは、すでに成立した契約の効力を解消させることを言います。
民法第545条(解除の効果)
- 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
- 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
- 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
損害賠償請求
損害賠償請求とは、相手が契約を守らなかった場合(債務不履行)や不法行為により損害を受けた場合に、その原因を作った者が損害の埋め合わせを請求することを言います。
不法行為とは
ある者が他人の権利ないし利益を違法に侵害する行為のこと。
また、その場合に加害者に対して被害者の損害を賠償すべき債務を負わせる法制度。
金銭消費貸借契約における損害賠償は、遅延損害金(遅延利息)の支払いによって行われます。
利息は、元本に追加して支払うお金のことですが、遅延損害金は利息とは別の性質を持ちます。
遅延損害金とは
債務の履行が遅れたため(履行遅滞)に生じる損害の賠償金のこと。
支払期日の翌日を起算日とし、それを超えた日数に対して発生する。
遅延損害金は、日割りで計算され、支払い遅延が生じた日数分の金利がかかります。
利息制限法では、「貸金業者は、遅延損害金は年20.0%までしか認められない。その超過部分については無効とする。」と定めています。
遅延損害金の計算式は以下の通りです。
遅延損害金 = 借入額(元金) × 遅延損害金年率(年20%) × ○日 ÷ 365日
通常、遅延損害金と利息は二重に発生することはありません。
支払期日が経過した後は、全て遅延損害金になります。
【関連ぺージ】 任意整理で借金の遅延損害金をカット
ブラックリスト
また、借金の返済を遅延した場合(61日以上もしくは3ヶ月以上)は、遅延損害金の請求を受けるだけでなく、信用情報機関へ履行遅滞の事実(異動情報)が登録されます。これは、いわゆるブラックリストのことを指します。
【関連ぺージ】 ブラックリストとは
ブラックリストになった場合は、一定期間にわたり新たにローンを契約したり、クレジットカードを作ることは出来なくなります。
支払遅延(延滞)が原因で登録された異動情報が消える一定期間とは、契約終了から5年間を指します。
まとめ
消費者金融などからお金を借りた結果、返済不能になって債務不履行が生じた場合は履行遅滞になります。
金銭債務において履行遅滞が生じた場合は、債権者から強制履行、契約解除、損害賠償請求を求められることがあります。
どうしても借金を返せなくなった場合は、債務整理を検討してみることをおすすめします。
債務整理手続きには、任意整理、個人再生、自己破産などがありますが、ご自身の債務状況に合った手続きを選択することが大事になります。
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|---|
返済義務 | あり | あり | なし |
請求停止 | ○ | ○ | ○ |
家族に知られない | ○ | × | × |
勤務先に知られない | ○ | ○ | △ |
裁判所 | × | ○ | ○ |
内容 | 債権者と交渉して借金を減額 | 家などの財産を残して借金を1/5に減額 | 財産を処分して借金をゼロに |
詳細 | 詳細 | 詳細 | 詳細 |
また、消費者金融やクレジット会社からの借り入れの場合、最後の返済から5年が経過している場合は、消滅時効が完成している場合があります。
消滅時効が完成していれば、消滅時効の援用をすることで借金の支払いを免れることが出来ます。
ただし、消滅時効は時効中断事由により、効力を失うこともあるため、詳しくは専門家に相談してみることをおすすめします。
また、「いつから借りて、いつまで返済していたのか分からない」などといった不安がある場合でも、調べてもらうことが出来るので大丈夫です。
【関連ぺージ】 消滅時効の援用とは